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むゆうびょうしゃのし
夢遊病者の死
江戸川 乱歩
「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,121 字 · 22 页
警官達が彦太郎の逃亡に気付いたのは、彼が半里も逃げ延びている時分であった。署長は、もう追っかけても駄目だと悟ると、猶予なく伯爵家の電話を借りて、その旨を本署に伝え、彦太郎逮捕の手配を命じた。そうして置いて、彼等は猶も現場の調査を続け、旁々検事の来着を待つことにしたのである。
無論彼等は彦太郎が下手人だと信じた。現場に残された唯一の手掛りである桐の下駄が、彦太郎の家の縁側から発見されたこと、その下駄の主と見做すべき彦太郎が逃亡したこと、この二つの動かし難い事実が彼の有罪を証拠立てていた。
ただ、彦太郎が何故に真実の父親を殺害したか、そして又、下手人である彼が、なぜ警官が出張するまで逃亡を躊躇していたかという二点が、疑問として残されていたけれど、それもいずれ彼を逮捕して見れば分ることなのである。ところが、そうして事件が一段落をつげたかと見えた時に、実に意外なことが起った。
「その人を殺したのは、私です。私です」
伯爵邸の方から一人の真蒼な顔をした男が、署長の所へ走って来て、いきなりこんなことを云い出したのである。その男はまるで熱病患者の様に、「私です私です」