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ゆめ
夢
和辻 哲郎
「新潮」1952(昭和27)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页
アイゼンハワーの指名はまだきまっておらず、マッカーサーの基調演説の内容もまだ報道されていなかった時だと思う。その新聞の記事が刺激になっていることは明らかである。しかしわたくしは大統領選挙にそれほど肩を入れているわけではないし、あの記事から近ごろの夢を見ない習性を破るほどの強い刺激を受けたとも思わない。多分その晩に食った鳥鍋がおもな原因であろう。鳥鍋と言っても鳥の肉をそんなに食ったわけではない。おもに野菜や豆腐を食ったのである。しかしその分量が普段の日よりは多かったように思う。
その夢の初めの方は少しぼんやりしているが、なんでも山の上の温泉場か何かで重大な大会が数日来催されていた。その様子は毎日テレヴィジョンで全世界に報道されている。今日はその最終日で、プログラムの最後に、重要な宣言が行なわれる。その宣言を演説する役目を、どういうわけかわたくしが引き受けているのである。それでその会場に行くために、わたくしは麓の電車の終点から、ぽつぽつと山あいの道を歩いている。時間は余分に見込んであるので、ゆっくりぶらついて行って大丈夫なのである。
この山あいの道は箱根のような山道ではなく、鎌倉の町から十二所の方へはいって行く道のように、平坦な道であった。