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ゆめ

夢

和辻 哲郎

「新潮」1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页

青空文庫

わたくしはこれでやっと解決したと思いながら、和尚さんの左うしろの壁にかかっている電話器のそばへ行った。がさてかけようとしても向こうの番号が解らなかった。で振りかえってそこいらにいた人に大会場の番号をきいた。すると和尚さんの顔が急に緊張した。それとともに数人の人がばらばらとわたくしの囲りに集まって来た。ただならぬ空気がそこに醸し出された。

わたくしはおおぜいに取り巻かれて、いろいろ和尚さんから詰問をうけた。大会場へ何の用で電話をかけるのか、いったい君は誰だというようなことであった。結局わたくしは、自分の名を名のり、なぜ電話をかけなくてはならなくなったかを白状せざるを得なくなった。しかし白状しても和尚さんはそれを信用しなかった。今世界的なニュースになっている大会の、しかも最も重要な宣言演説者が、今ごろこんなところでまごまごしているはずはない。そういう地位の人は自動車でも飛行機でも自由に使えるはずではないか。人を馬鹿にするな、というのである。致し方なくわたくしは胸のポケットから書類を出した。それを和尚さんに渡す前にパラパラとめくって見ると、初めの二三枚は和文のタイプライターで打った宣言演説の原稿であり、そのあとにこの地方の知事とか警務部長とか国鉄の当局とか町長とかに当てた通牒が続いていた。