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ゆめ

夢

和辻 哲郎

「新潮」1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页

青空文庫

その中に、夢はその時々の人格の成長のインデックスだという意味の言葉があった。この言葉はその後長くわたくしの心にこびりついていたが、夢を見たあとで、自分の人格の成長を知って喜ぶなどということは一度もなかった。何か食い過ぎた夜の夢などはろくなことはなかった。ヒルティの言葉が本当なら、わたくしは人格的に一向成長しなかったことになる。あるいはそうであるのかも知れない。そういう点についても、少し夢を語って見なければ、達人から教えを受けるわけに行かないであろう。

もう十何年か前の話である。日米関係が大分険悪になっていたころであるから、昭和十五年の末か十六年の初めごろであったかと思う。国際文化振興会の黒田清氏に招かれて、谷川徹三氏などとともに星ヶ岡茶寮で会食したことがある。その席で少し食い過ぎたためであったかも知れない。その夜の夢にわたくしは日米開戦を見たのである。

星ヶ岡茶寮のあった日枝神社の台は、少し小高くなっていて、溜池の方向から下町が少し見える。しかし東京湾まで見晴らせるというわけではない。しかるに夢では、どうやら星ヶ岡らしい高台から見晴らしているのであるが、海がわりに近くに見え、その海に面して十層くらいの高層建築が数多く立ち並んでいた。