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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

曲がって見て彼はアッと云った。露路は浅い袋路なのに、彼らの姿がどこにも見えない。

彼は棒立ちに突立った。それから仔細に辺りを見た。

16

左と右は板壁で、出入口らしいものは一つもなく。ただ正面に古びた家が、戸口を向けて立っていた。

「ああ、あの家へ入り込んだな」

こう思った彼は走り寄ると、躊躇なく表戸へ手を掛けた。すると意外にもスルリと開いた。内へ入って見廻すと、空家と見えて人影もなく、家具類さえ見あたらない。

裏にも一つの出入口があって、その戸がなかば開いていた。

「うん、あそこから抜け出したのだな」

で、彼はその口から、急いで外へ出ようとした。すると、その戸がにわかに閉じ、閂を下す音がした。

「しまった!」と叫ぶと身を翻えし、入って来た口から出ようとした。するとその戸も外から閉ざされ、閂のかかる音がした。

もう出ることは出来なかった。彼は監禁されてしまった。

こんな場合の彼の心に、よくあてはまる形容詞といえば「茫然」という文字だろう。実際彼は茫然として、暗黒の家内に突立っていた。

しかしいつまでも茫然として、突立っていることは出来なかった。抜け出さなければならなかったし、追っかけなければならなかった。