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だいこのは
大根の葉
壺井 栄
「文芸」改造社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,854 字 · 50 页
とり落したガラガラがまた手に帰ることなどは念頭にないのだ。泣きもせず、しずかな表情でただ、眼球を動かしてだけいた。物を見て喜ぶことも、騒ぐことも、何か欲しくて泣いて訴えることも知らない。まるまるとふとって風邪ひとつ引かない体でありながら、克子の感情の世界はただ食欲にともなうものよりほか、その成長をはばまれているようであった。それさえもお乳のほかはすべて受け身であった。あてがわれて唇にふれてきてはじめて口を開いた。おとなしい子だと村の人たちにほめられるたびに、お母さんはひとり、つらい思いをした。克子は母親の顔を覚えず、声を聞いて喜んだり、泣いたりするようになった。ちょうど二、三か月前、正月休みにあちこちの目医者をまわって診てもらった。四、五年待ったうえで、とみないいあわしでもしたように匙を投げた見立てであったが、ただひとり神戸の医者が、見えないけれども光りと闇を知っているという診断をくだした。くるくる眼球を動かしているのは、どうにかしてものを見ようとする視神経のけんめいな努力の現われ方だと説明され、だから視神経のそのけんめいな活動が中止しないうちに、一日も早く手術をするようにといわれた。