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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「勤番の諸士方で、御指南をこいにまいるものはありませんか」

「ありませんね……ばかにしてね、このおやじをばかにして寄りつきませんよ」

「市中の若い者は……」

「年寄をなぐっても仕方がないといって笑っています」

「失礼ながら、ドチラで無眼流をお学びになりましたか」

「飛騨の高山で習いました……武者修行の途中、あの山中で峨々たる絶壁の丸木橋を渡りわずろうていると、そこへ目の見えない按摩が来て、スルスルと渡ってしまったのを見て、両眼があって、多年武芸をみがきながら、両眼見えずして無心の按摩の得ている極意に及ばないことを知って、ついに無眼流の一流を発明したのは私ではございません、流祖の反町無格のことですよ。その流れをくみまして、こうして無眼流の看板を掲げましたが、いっこう弟子がつきません。今日はお前さんがたいそう神妙に話をなさるから、お相手になって上げましょう」

と言うところは、いかにも勿体がついていますから、

「なにぶん、お願い申します」

このおやじ、むかし取った覚えの竹刀で立合ってくれるのだろうと期待していますと、おやじは絵馬をかく手をいっこう休めず、道具をつけて立合おうとする気色がなかなか見えません。