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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
それと同じで、有能者が無能者に負けることの逆理を説き出したのが、なるほどと聞きなされました。
「また、おいでなさい。無眼流の極意は、この見える目をいったんつぶしてしまわなければわかりません」
と老人が最後にいった言葉を意味深く聞いて暇を告げ、若干の金を紙に包んで奉納し、なお老人のかいていた絵馬を一枚無心して、それをかついで帰路につきました。
兵馬はその絵馬をかついで、舞鶴城の濠の近辺を通ると、どうしたものか、一頭の犬が、兵馬の前路をふさいでさかんに吠え立てます。
「しッ」
兵馬が叱ったけれども、犬は容易に尾をまかないで、かえって目を怒らして兵馬に飛びかかろうとする、すさまじい勢い。
そこで兵馬は小癪にさわりました。かつて、慢心和尚がいうことには、「人間は、犬に吠えられるようでは、修行が足りない」
兵馬は、この一言を思い出しました。なるほど、あの和尚は、随分奇抜な風采で人の門に立つこともあるが、犬に吠えられたという例を見なかった。人を見れば吠えつく悪犬でも、和尚がそばへ寄ると、鳴りをしずめてなついて来るのを、兵馬は実見して不思議なりとしたことがあります。