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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

と言って、お銀様は手を鳴らして女中を呼び、更に番頭を呼んでもらって、自分だけ座敷を改めることをたのむと、さっさと、自分のものだけを運ばせて引移ってしまいました。

兵馬はお銀様の片意地に驚きました。けれどもお銀様を片意地の気質にさせた原因を知っているものですから、いい出した以上は、その意に任せるよりほかは仕方がないとあきらめました。

さて、こうなってみると、有力な後援者を失った自分は、また貧寒なる一人旅のさすらいだ。しかし、もう今度こそは、相手が塩尻峠を越したことを、歴然とつかんでいる。あの峠を越した以上は、その行先こそしかとわからないとはいい条、袋の鼠のようなものである。今度こそ――という目あてがついたようなものですから、旅嚢の欠乏も、さのみ気にはかかりません。むしろ、ここでお銀様の方から去ってしまったことが、身軽でよいくらいのものです。

そこで思い出して、預かっていた胴巻の金のすべてを取り出し、女中を呼んで、これをお銀様のもとへ届けさせますと、お銀様から突き戻して来て、

「そんなものは知らない」

と言ったとの返事。それではいけないと兵馬は自身携えて行って渡すと、お銀様は、