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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
悪く取ってはいけません。
「しかし、そういう下等な奴は下等な奴として、本当の江戸ッ児にはいいところがあるよ、本当の江戸ッ児にはどうして……」
といっているうちに、道庵先生が急に頤を解いて、米友を吃驚させるほどの声で笑い出しました、
「アハハハハハハハ」
「何だ、先生、何がおかしいんだい」
「米友様、あれ見ねえ、あの幟をよく見ねえな」
といって道庵先生が、芝居小屋の前に林立された役者の旗幟を指さしましたが、それをながめた米友には、別になんらの異状が認められません。どこの芝居小屋にもあるように、景気のよい色々の幟が、役者の名を大きく染め出して林立しているばかりです。
「う――ん」
といって、先生がおかしがるほどの理由を、その幟の中から見つけ出すことに、米友が苦しんでいると、
「アハハハハハハハ」
と道庵がわざとらしく、また大声で笑い、
「米友様、よくあの幟の文字をごらん、市川海老蔵――と誰が眼にも、ちょっとはそう読めるだろう。ちょっと見れば市川海老蔵だが、よくよく見ると、海老の老という字が土になっていらあ。だから改めて読み直すと市川海土蔵だ、海土の土の字の下へ点を打ったりなんかしてごまかしていやがら。