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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

あとの四分も、やはり婦人ではあるが、もう婦人の役を終った老婆連と、そのおともらしい男だけ。

この若い住職は、印の結びぶりも鮮かだし、お経を読むのもなかなかの美声です。

ともかく、何の信仰心もなしにやって来たお絹でさえも、その席へ連なっていると、悪い心持はしません。

それはある日のこと、

「神林の奥様、お急ぎでなくば、今日は書院でお茶を一つ差上げたいと、御前の言いつけでございます」

「それは有難うございます」

護摩の席が終ったあとで、帰ろうとするお絹を、こういって番僧がひきとめたものですから、お絹が喜びました。

書院に待たせられていると、ほどなく例の千隆寺の若い住職が、まばゆいほど紅の法衣をそのままで、極めてくつろいだ面色をして現われ、

「お待たせ致しました」

「先日は失礼致しました」

「いや、拙僧こそ。あの時は多忙にとりまぎれて、余儀なく失礼を仕りました、今日はごゆるりと、お話を承りたいと存じます」

「はい……」

お絹はどこまでも殊勝な面色と、武家の奥様という品格を崩さないつもりで、身の上話をはじめました。

この身の上話は、ここに通いはじめた最初から用意をして来たのですが、今日まで直接に住職に打明ける機会を与えられなかったものです。