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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

どこへ行くのだろう。多分、屋敷へ引返すのだろうと、松の上から七兵衛は、足もとあぶなく、槍を力に、ふらふらと歩いて行く主膳の姿を、こころもとなく見返っていましたが、それも、まもなく、呉竹の蔭なる小路に隠れて、見えずなりました。

あとで、ゆっくりと、高見の見物で、千隆寺の境内を隈なく見おろしていた七兵衛。いいかげんの時刻に、ひとり合点をして、その松を下りようとすると、例の呉竹の小路の間から、足音が聞えました。

また思い出して、神尾主膳が戻って来たな、見つかっては面倒だと、いったん下りて来た七兵衛が、そのまま、松の茂みの間に身をひそめています。

歩いて来たのは二人連れ。神尾主膳が戻って来たのでないことは確かだが、因果なことに、その二人が、御行の松の根元へ来て、どっかと腰をおろしてしまったことです。

「時に時刻はどうだ」

「まだ少し早かろう」

そのまだ少し早かろうという時間を、ここでつぶそうとするものらしい。

七兵衛が苦い面をしました。どのみち、長い時間ではあるまいが、少なくとも、この連中が立退かない限り、この松の上からは下りられない。下なる二人は、かなり落着いて、しかし人を憚っての話し声でありましたが、頭の上の七兵衛には、それが手に取るように聞き取れる。