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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
ちょうど、それと前後して、御行の松の下を走る二人の者。前に手を引いているのはお絹で、あとのは千隆寺の住職。二人とも跣足。
ほどなく、神尾主膳の屋敷の中へ再び姿を現わした七兵衛。
その時分、主膳は前後も知らず眠っておりました。
その一間へ悠々とお賽銭箱を卸した七兵衛は、早くも用意の裸蝋燭を燭台に立て、その下で一ぷく。やがて、賽銭箱の蓋を取ってかき交ぜ、燭台を斜めにしてのぞいて見ると、これはありきたりのバラ銭とちがい、パッと眼を射る光は、たしかに一分判、南鐐、丁銀、豆板のたぐい。これは望外の儲け物。しかしありそうなことでもあると徐ろにその獲物の勘定にとりかかろうとするところへ、裏手で篠竹のさわぐ音。
ははあ、帰って来たな、と思いました。
さいぜん、七兵衛が天井裏で眺めていた婦人の中には、お絹の姿が見えなかったのが不思議だが、あの女のことだから、うまく擦り抜けたのだろう。これはたしかにあの女が帰って来たのだな、と思ったから、急にいたずら心が起りました。
一番おどかしてやろうかなという心持で、フッとその燭台の火を消してしまいました。
果して、立戻って来て、裏の篠藪からソッと枝折戸をあけて、入り込んで来たのは、千隆寺の住職の手を引いて、跣足で逃げて来たお絹。