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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
そこで兵馬は、まずこの刀の作者年代が、誰で、いつごろ、ということは念頭にのぼらないで、
「これは寺の刀ですか、それとも誰か持って来たのですか?」
「この床の間にあったのです」
「それでは、寺の物ですな」
「そうかも知れません」
兵馬の疑点が一歩ずつ深く進んで行きました。身に寸鉄を帯びざることは、智識の誇りではあるにしても、寺に刀があって悪いという掟はない。ただ不審なのは、近き既往においてこの刀が、まさしく血の味を知っていたとのことです。この寺の住持は老齢の身で、盗まれたものさえ、訴えては出ないほどの仁者である。それが、この刀を振り廻そうはずがない。それでは弁信か、茂太郎か。どちらにしても、想像の持って行き場がないではないか。まして、お雪ちゃんにおいてをや。
同時に閃めいたのは……閃めかなければならないのは、過ぐる夜のことで、山窩のものだという悪漢が二人、この寺に押込んで、泊り合わせた兵馬のために傷つけられて逃げた、それが町の外れの火の見櫓の下でおおかみに食われて死んでいた、罰はテキ面だと人をして思わしめたのは、遠くもない先つ頃のことで、その当座は――今でも、誰も狼に食われたものと信じて疑わない。