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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
切石道を登って、楼門、元亨の銘ある海中出現の鐘、頼朝寄進の薬師堂塔、庵房のあとをめぐって、四角の竹の林から本堂に詣で、それを左へ羅漢道にかかると、突然、上の山道から途方もない大きな声で話をするのが聞える。
「羅漢様に美い男てえのはねえものだなあ」
「べらぼうめ、こちと等は羅漢様からお釣りをもらいてえくれえのものだ」
「ちげえねえ、いよう羅漢様」
「羅漢様――」
「羅漢様――」
山を遊覧する人間が、大きな声を出してみたくなるのは、妙な心理作用であると思いました。江戸あたりから遊覧に来た連中らしいが、とうとうそれらは羅漢様からお釣りを取ろうという面を見せずに、あちらの山に消えてしまう。
さて、石の千体の羅漢はこれから始まる。あるところには五体十体、やや離れて五十体、駒井甚三郎は、その目をひくものの一つ一つをかぞえて行くうち、愚拙なるもの、剽軽なるもの、なかには往々にして凡作ならざるものがある。無惨なのは首のない仏。しかしながら、首を取られて平然として立たせたもう姿には、なんともいえない超然味がないではない。
やがて駒井が足をとどめたところには小さな堂があって、その傍らにかなり古色を帯びた石標――「秋風や心の燈うごかさず 南総一燈法師」