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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
その物好きは、お絹という女です。
これは猫に小判ではない、たしかに猫に鰹節ですが、この猫は牙を鳴らして、飛びかかりはしないが、猫撫で声をして、
「七兵衛さん、眩しくってたまらないから、蝋燭を一挺にしたらどうです」
「へ、へ、へ、いや、これで結構でございますよ」
見向きもしないで、また新たに小判の包みを一つ、ザクリと切ってブチまけたのは、いよいよ気障です。
「小判のようですね」
「へ、へ、小判でございます」
「贋じゃあるまいね」
「どう致しまして……小判も、小判、正真正銘の慶長小判でございますよ」
「本当かい」
「論より証拠じゃございませんか、一枚嘗めてごらんなさいまし」
と言って七兵衛が、その小判のうちの一枚を取って、敷居ごしの隣座敷のお絹の膝元まで、高いところから土器を投げるような手つきで抛ると、それがお絹の脇息の下へつきました。
「お見せな」
お絹はその一枚を手に取り上げて、妙な面をして眺めました。
「色合からして違いましょう」
「そうですね」
「それから品格が違います」
「そうかしら」
「これと比べてごらんあそばせ――こちらのは、常慶院様の時代にお吹替えになりました元禄小判でございますよ」