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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

宿に残された兵馬は、その晩、按摩を呼ぶことを頼みました。

按摩を取るほどに疲れてもいないけれど、土地の内状を知るには、按摩を呼ぶが近道と思ったのでしょう。

ほどなく、按摩が来るには来たが、それは眼の見えない男按摩ではなく、目の見える、しかも十四五になる少女でしたから、兵馬も意外の思いをしたが、それに肩を打たせて、さて徐ろにこの温泉場の内状、城下の景気、近頃の泊り客は如何というようなことから持ちかけてみると、小娘の按摩は存外ハキハキした返答ぶり。

特に「塩市」の賑わい隣国に並びなきことと、町の催し、諸国から集まる見世物、放下師の類、その辺についての説明は委しいもの。

一段と念を入れていうことには、

「今年はちょうど、お江戸で名高い市川海老蔵さんという千両役者が参りました。昨日から宮村座で蓋をあけましたから、ぜひ一度ごらんになっておいでなさいまし」

と勧める。そのことならば、仏頂寺、丸山の輩でさえも噂をしていた。だが、兵馬にとっては芝居どころではない。聞き流しているのを、小娘はいい気になって、海老蔵の偉いこと、千両役者の貫禄の大したものであること、この土地へも千両役者は滅多に来ないということ、果ては、わたしはまだ千両役者というのを一度も見たことがないと、聞かれもしないのに自白するところなどは、抜け目がなく、うっかり