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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

と言いました。

事実、道庵は好んで人の悪口をいい、また好んで当擦りをするわけでもなんでもないが、一流の店ともあろうものが、こういう悪酒を作って売り出させようとする手段を卑しむのは、少しも無理がない。ところがそれを聞いた店の者共は、しゃあしゃあとして、

「いい酒であろうと、悪い酒であろうと、大きにお世話だ、空気中へ抛り出しておきながら、聞いて悪いの、見て悪いのという理窟はあるめえ」

といいました。

その理窟は、ラジオでもなんでも、盗み聞いて差閊えない――といって奨励するような口ぶりでありましたから、道庵も呆れ返りました。

本来、道庵先生も決して競争を非とはしない。むしろ大いに好んで競争をやりたがる。さればこそ鰡八大尽の如きをさえ向うに廻して大いに争ったが、その争いたるや君子――でないまでも卑劣な争い方は決してしていない。全力を尽して堂々――と、時としては全力を尽し過ぎて滑ったりするが、そこには自分の自信を裏切るようなことは決してしていないのだから、今この一流の夕日屋ともあろうものが、良き酒に水を交ぜてごまかして売るというようなやり方を見て、せせら笑いました。