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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
道庵の気紛れは、今にはじまったことではない。ある時は長くなり、ある時は短くなるのも、今にはじまったことではないが、気の短い一方の米友が、こうして別段にじれ出そうともしないのは、遥かに東を望んで、泣いているからです。
「あッ」
暫くあって気がつきました。鴉が鳴いて西へ急ぐからです。
そこで、米友は玉垣へ立てかけて置いた杖槍を取るが早いか、転ぶが如くに権現前の石段を、一息に走せ下りました。
「こんにちは」
権現の前の石段を一息に走せ下ったところは、碓氷の貞光の力餅です。
「先生はどうしたい、先生は――」
そのまるい眼をクルクルとして、力餅屋へ乱入しましたけれど、餅屋では相手にしません。
「先生……おいらの先生……」
次に米友は、その隣りの茶店へ乱入しましたけれど、茶店でも取合いませんでした。
「ちぇッ」
米友は舌打鳴らして地団駄を踏みました。どうも見廻したところ、この近辺にわが尋ねる先生の気配がない。
茶店の隣りが荒物屋――その隣りが酒屋だ。この辺で、鼾の声がするだろう……てっきり――とのぞいて見ても、道中の雲助共が、ハダかっているだけで先生の姿が見えない。