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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

米友は、今もそれを、まともに思い出しているのです。こういう男の常として、一を信ずれば、十まで信ぜずにはおられません。

それとは知らず道庵先生は、宵からグッスリと寝込んでしまって、翌朝、例刻には眼を醒したけれども、昨日の疲れもあるし、第一、水をかけられた着物からして、乾かさねばならないから、モウ一日一晩、軽井沢に逗留することになりました。

ところが、朝飯が済むと、もうノコノコと問屋場へ出かけて来て、裸松の診察にとりかかりましたものですから、宿の者が、いよいよ気の知れない先生だと思いました。

それにも拘らず、先生は、裸松の病床でしきりに診察を試みながら、居合わす宿役人らをつかまえて気焔を上げているのは、宿酔い未だ醒めざるの証拠であります。

一方、宿に残された宇治山田の米友は、一旦は起きたけれども、やがて荷物を枕に、身をかがめて横になってしまいました。多分、昨夜の夜もすがらの煩悶が、心をものうくしたものでしょう。この男は大抵の場合には、夜具蒲団を用いないで寝られる習慣を持っている。時として、せっかくの夜具蒲団をはねのけて、横になったところを寝床とするの習慣を持っている。