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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

な人が、その流行ものの傘をさして、のこのこと出て来たから、それで一層お角の目を惹いたのでしょう。お角ばかりではない、誰でもみんな、そちらを眺めました。

この大男は誰あろう、足利の絵師、田山白雲でありました。しかも、これは房州戻りそうそうの、江戸の土を踏んだ初めての見参なのですが、さすがの白雲も、芸術家並みに頭の古いといわれるのを嫌がって、それでハイカラの傘を仕込んで来たと見るのは僻目で、これは洲崎の駒井の許を立つ時に貰って来たのでしょう。それもハイカラのつもりで貰って来たのではなく、日のさす時は日除けになり、風の吹く時は風除けになり、雨の降る時は無論、結構な雨具に相違ない。その上折畳みが自由に利くから、実用無類の意味で、駒井の物置から探し当てたものとも思われます。

とにかく、こうして蝙蝠傘をさして、ゆらりと江戸の浅草の駒形堂の前の土を踏んだ白雲の恰好は、かなりの見物でありました。それは、頭の上だけは例の大ハイカラ蝙蝠傘で新し味を見せているが、頭から下は以前といっこう変ったところがありません。六尺豊かの体格に、おそろしく長い大小を横たえて、旅の荷物を両掛けにして、草鞋脚絆厳めしく、小山の揺ぎ出たように歩き出して来たものですから、新しい人だか、古い人だか、ちょっと見当がつかなくなりました。