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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

「友さん、そうしてお前、いったい、その荷物は、名古屋のどこのなんといううちまで引いて行くのだエ」

「あ、どこだか知らねえが……」

「行く先がわからないのかエ」

「所番地はちゃんと聞いておかなかったんだが、その一軒のところはヤシの家だ」

「ヤシ?」

「うむ」

「ヤシって何だろう」

「生き物に芸を仕込んで、見世物にしようというところなんだ」

「ははあ、香具師かエ……」

「うむ」

「そうして、そのめざす相手の香具師というのは、名古屋の何というところの、何という人?」

「それはわからねえ、ただ、香具師のところへ……香具師に少し、こっちも頼みてえことがあるのでね」

「名古屋も広いね、香具師だって、一人や二人じゃあるまい」

「うむ」

「まあ、いいさ、そのうちには何とか手蔓があってわかるだろう、都合によっては、わたしの方で当りがつくかも知れない」

とお角が言いました。

香具師の連中といえば、興行界の伝手を以て行けば、存外、たやすく当りがつくかも知れない。その時に米友の頭へ発止と来たのは、そうだ、この女軽業の親方は顔がいいし、じゃの道は蛇だ。

熊の子を、香具師の手から譲り受ける交渉やなんぞには、親分の道庵先生を頼むよりは、この親方のお角さんに渡りをつけてもらうのが、利き目がありはしないかということです。