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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

30 畜生谷の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,962 字 · 145 页

青空文庫

とは、聞捨てのならないたわごと。痩せても枯れても新家の徳兵衛は、妻子を食わすだけの用意は欠かさぬぞ、貴様こそ、そんな言いがかりをして、この身代が欲しいのやろ」

「笑わせなさんな、親類寄合いの時、わしをこの家の後嗣にと、相談のきまったのを、こんなけがらわしい家はいやと、きっぱり断わったわしの舌の根を見ておくんなされ。おじさん、お前こそ、お前こそ怪しい」

「怪しいとは、何が怪しい」

「胸に聞いてごろうじろ、お前は、お前はとうからこの川杉家を覘っていた」

「聞捨てならん、こいつが、この席で、皆様の前でこうしてくれる」

徳兵衛は、よほどこたえたと見えて、いきなり、角之助の頬っぺたを、強かにつねり上げる。

「あいた、た、た」

「うぬ、こうして、こうして、その横に裂けた口をいたしめてくれよう」

「合点だ、人でなしをかばうは人でなし、おじとは思わん」

「うむ」

「こん畜生」

「獄道」

叔父と甥とが棺の前で、組んずほぐれつ、大争いを捲き起したのはほとんど束の間の出来事で、最初から、この寄合いが掴み合いになるまで手を束ねて、呆気に取られていた会衆が、ここに至るとじっとしてはおられません、一時に仲裁に向って立ち上りました。