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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
33 不破の関の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 86,467 字 · 168 页
いくらいい物であっても、吹聴しなければ人が知らない、人が知らなければ商売にならない、それは本当にエライ人は黙っていても名を隠すことはできないが、自分なんぞは、のろまの清次だから、そんなに気取っているガラではない、なんでもかんでも、自分で自分を吹聴してあるかなければ、人が知ってくれない――ということにあるようです。
こうしてがんりきは、のろまの清次の講談師以上の雄弁を聞かせられながら、くすぐったい思いをしたり、冷汗を流したりなんぞしつつあるうちに、話が盛り沢山なために、けっこう暇つぶしになって、そうして、例の街道を楽々として、美濃の金山へ突破してしまいました。
三十九
こうして、がんりきと、のろまの清次は、飛騨の国の境を出で、その晩に、竜之助と淫婦のお蘭が一夜を明かした本陣の宿まで来てみたが、がんりきは、そこで得意の一応の偵察を試みたけれども、ここで、幾日か前の晩、女が一人、吊し斬りにされたという噂もない。亭主や女中に鎌をかけてみても、要領を得ないこと夥しい――水を飲むふりをして裏庭から、土蔵、裏二階をまで横眼で睨んだけれども、人が隠れ忍んでいるような気色は一向ないから、がんりきは先を急ぐ気になりました。