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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
頭を菊いただきのように、ひら毛を立てて隙をねらう、あの目つき、物ごしを見るがいい。
掛物竿ではっしと打つと、それをかいくぐった定九郎鴉は伊太夫に飛びかかるかと思うと、そうではなく、伊太夫の袖の下をくぐって、飛びかかったのは、古代切に包んだ上代瓦の箱物でありました。その結び目へ鋭い嘴をひっかけると、その包みを啣えて引摺り、ぱっと飛び退きました。
「こいつ」
伊太夫が、またも掛物竿を取り直す隙に、早くも定九郎鴉めは、どこをどう逃げたか、全くこの座敷から姿を消してしまうと、伊太夫がホッと息をつき、
「うーん」
とうなされただけのものです。しかし、暫くすると、本当に眼がさめました。
眼がさめたと思うと、外で鳥のはばたきを聞きましたが、それは烏ではない、鶏であることがよくわかり、同時にその鶏が声高く時をつくるのを聞きました。
鶏が鳴いたな、何番鶏か知らん、こちらは眼がさめたけれども、夢を見すぎたせいか、どうも寝足りないような気がしてならぬ。と、伊太夫が床の中でうつらうつらしていると、裏口で人の声がする。これはまぼろしの人の声ではない、現実生活の声だ。現実生活の声も、旅籠屋商売などは、現実が未明から夜更けまで続く。