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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
の名が中外に響いているのだが、変化自在の身であってみると、必ずしも美人だけにしか化けられないと固定したものではない。
機に臨み変に応じてさまざまの異装を現じて、寺法守護の権現の役をつとめているということだから、今晩は特に好みを変えて、かく覆面姿の、浪人者の、落し差しの体となって、深夜のそぞろ歩きに、天井裏の鬱を慰めに出たのかも知れない。
そこで、この化け物が、台所門の方からふらりと境内の闇に現われました。
ここに台所門と言ってしまえば、お花さん狐が、野良狐のように餓えかつえてお料理場の油揚の切れっぱしをでも漁りに来たかのように聞えて、甚だ体裁が悪いのですが、本来、大通寺の台所門というのは、さように口腹のための出納所という意味ではなく、これぞまだ昔の豊臣太閤が、はじめて筑前守に封ぜられた当時に建設したここ長浜の城の大手門でありました。その証拠には、今でも門扉の金具の裏に、「天正十六年戊子八月十六日」と銘が打ってあり、なおまたその扉には矢の根の痕までついている。しかく英雄によって名残りを残す一城の大手門なのであって、「お花さん狐」にしてからが、その英雄時代にすでにその同じ城内に巣をくって、長生今日に至るほどの霊狐なのですから、次第によっては歴代の御連枝以上に信仰もされている。