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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

五十七

右の奇怪な女人が抱き締めた他のものというのは、おさな児の揺籠ではなくて、玄関の松の大木でありました。

その大木にしがみついたかと見ると、なお驚くべきことには、女だてらに力を極めて、その幹から枝へ上り出したことです。

してみると、この女が、人の親でなかったことは明らかであります。人の親でないとすれば、狂人というよりほかはないでしょう。でなければ、例によって、お花さん狐の化けっぷりの一つかも知れないが、それにしてもバツが違い過ぎる。

狐もお花さん程度になると、こんなにまで狂人的にあがいて興をやる必要はないに相違ない。してみれば、やっぱり人間だ、人間の狂えるものの仕業だ。

この狂える白衣の女人は、昔の「友の松」の大木の幹にかじりつきながら、ついに、ほとんど頂上に近いところまで上りつめてしまうと、そこで、とある一つの枝に腰を卸して、身体の調子を取りながら、手を懐中へさし入れると、取り出したところのものは別のものではない、身の丈五寸ほどの、藁でこしらえた人間の形であります。

ははあ、これで万事が読めた。この女が温かい心を持った人の親でないことは勿論だが、また必ずしも狂人ではないことも明らかです。