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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
山の風情がとても美しいくせに、湖にとってはなかなかの難物でございますって――それと申しますのは、若狭湾の方の低い山々から吹き送られてまいりまするところの北西の風が、ことのほかにたくさんの雪を齎し来るのだそうでございます、そうして、あちらの日本海の方から参りまする雪という雪が、みんな比良ヶ岳の山に積ってしまうのだそうでございます、それで、そのわりに雨というものが少ないものでございますから、雪の解けることがなかなか遅いそうでございまして、冬から春さきにかけますと、沿岸の平地の方は温かになりますのに、山中及び山上は、甚だ冷たいものでございますから、そこで温気と寒気との相尅が出来まして、二つの気流が烈しく交流をいたしますものですから、それが寒風となって琵琶の湖水に送られる時が、たまらないのだそうでございます。波風は荒れ、舟は難船いたし、人も災を蒙ることが多いのだそうでございます。そこで、この時分を、比良八荒と申しまして、事に慣れた漁師でさえも、出舟を慎しむのだそうでございます。藤井竹外という先生の詩に『雪は白し比良山の一角 春風なほ未だ江州に到らず』とございました、あの詩だけを承っておりますと、いかにも比良ヶ岳の雪は美しいものとばかり思われますけれども、そういう荒い風を送るということを、わたくしは一昨日、胆吹の