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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
七兵衛は心得きって、いざといえばこの裏戸を蹴破って走り出す用意万端ととのえていながら、なおじっと辛抱して、混入して来た一行の言語挙動に耳を聳てている。
聞いていると、二人三人、怪我をしたものがあるにはあるらしい。だが、喰われた人はない。ただ、馬が、馬が――というのを聞くと、馬だけは犠牲になってしまったようでもある。
旅の人も無事らしい。それを労る若い者の声、村人の口々に騒ぐ声、土音拗音でよくわからないが、鬼を、鬼を――という罵り声を聞いていると、どうも、鬼を生捕ってでも来たものでもあるらしい。そうでなければ、鬼を退治して、その死体をでも引摺り込んで来たとしか思われない。
鬼を捕えて来たのか、そりゃあ大したことだ、生きた鬼を見てやりたい!
七兵衛も、この際とはいえ、これには全く好奇心を動かさざるを得ませんでした。
果してこの世に、鬼なんぞというものがあるのか。あればこそだ。現に、それをここへつかまえて来ているというではないか。見たいものだなア、一目見て置きたいものだなア――と焦ってみたが、ここで飛び出すのはあぶない。鬼でさえ組みとめた連中の中へ、いくらなんでも縄抜けのこの身は出せない。