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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
に、先の宿まで行くに日は暮るまじきやと問ふに、眉をひそめ、道をさへいそぎ玉はば行きつきもし玉はんなれど見れば遠国の人々にてぞ、此程は此あたりに鬼出でて人をとり食ふ、初めは夜ばかりなりしが、近き頃になりては、白昼に出て、此迄行かふ者は人馬の差別なく、くはれざるはなし、是迄の道も鬼の出でぬる処なるに食はれ玉はざりしは運強き人々也、是より先は殊さら鬼多し、旅するも命のありてこそ、何いそぎの用かは知らねども、日暮に及んで行き玉はんは危しと言ふ……」
百五十九
当時、南渓子の同行に養軒子というのがありました。鬼が出ると聞くより、カラカラと打笑い、
「いかに辺土に来ぬればとて、人を驚かすも程こそあれ、鬼の人を取り食ふなどは昔噺の草双紙などには有る事にて、三歳の小児も今の世には信ぜざることなり、其鬼は青鬼か赤鬼か、犢鼻褌は古きや新しきやなど嘲り戯れつつ……」
ところが、南渓子も、養軒子も、ほどなくこの嘲弄侮慢からさめて、自身の面が、青鬼よりも青くならざるを得ざる事体に進んで行ったのは、なんとも笑止千万のことどもであります。南渓子は紀行文の中へ次の如く書きつづけております。