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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
称は目下でなければ使わない。長松どんだとか、おさんどんだとかいう場合でなければ、関東では「どん」称語を用いないことになっている。西郷どんだの、東郷どんだのと、相当の人傑に対して、断じて「どん」称を用いることは江戸にはない。ところが、お角さんは土方歳三に向って、遠慮なく「どん」称号を乱発しているし、御当人の土方そのものが、また、この「どん」称号を甘受して、あえて悪い面をしない。
してみれば、お角さんの眼から見れば、土方歳三は、どうしても同輩以下のあしらいであり、土方は、それをそのままで受取らなければならない身分の相違がある。といって、お角さんそのものが、頼朝公の落し胤だという系図書もなし、何の因縁で土方をどん扱いにするのだか、それは分らないが、存外寛大な土方は、お角が上方見物の途中と聞いて、
「では、京都へ来たらぜひ拙者のところへ寄り給え、三条の新撰組の屯所と言えば直ぐわかる。だが、隊へ来て、歳どん、歳どんは困るよ、土方先生とたずねて来いよ」
「いやな先生――あんまり弱い者いじめをなさると、松坂屋の一件を素っぱ抜いてあげますよ」
とお角さんが言いました。