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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

百九十八

斬られた人間の死骸でもなければ、栄養不良の行路病死人でもない、土で形をこしらえた、人間の模造品でありました。

これを感得した米友が、自分ながら力負けがして、かなり手荒く、その模造人間の死骸の襟首をとって引起して見ると、

「馬鹿にしてやがらあ」

それは、紛れもなく髭むじゃの鍾馗様の人形です。鍾馗様の人形とわかったけれども、その鍾馗様の人形が、こうしてこんなところへ何のために誰が捨てたのか、それはわからない。運搬の途中、過って取落したにしては念が入り過ぎている。長浜の土地は山車の名所だから、それを知っているものは、これも山車の人形の一つで、相当の名工が腕を振ったものであろうとの想像はつくけれど、山車の人形というものは、守留の上に高く掲揚せらるべきもので、土の上へ投げ捨てて置かるべきものではない。まして、高札風情に押し潰されて、起きも上れないような鍾馗様では、鬼に対しても睨みが利かないのだ。まさに誰かの悪戯だ、悪戯にしても念が入り過ぎている悪戯で、笑いごとの程度では納まらない。だから米友も、

「性質のよくねえいたずらだ」

ぼうぜんとして、その鍾馗様を睨めたまま、為さん様を知りませんでした。