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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

その時、不意に米友の後ろから風を切って、

「御用!」

「捕った!」

黒旋風のようなものが、後ろの浜屋の天水桶の蔭から捲き起ったと見ると、米友の背後から、さながら鎌鼬のように飛びついたのです。

「何だ、何をしやがる」

そこで、クルクルと二つのものが巴に廻ったかと見ると、その一つは忽ち遥か彼方の街頭にもんどり打って転び出したが、起き上ることができない。

それは、天水桶の蔭から飛び出した鎌鼬で、こなたの米友が、

「何だい、何をしやがんだい、不意に飛び出して、人をつかまえようたって、そうはいかねえや、用があるなら行儀作法で来な、おいらは、人につかまるような悪い人間じゃあねえんだぞ」

米友としては全く予想外の乱暴に出逢ったものですが、飛びついた方は理由なしにかかったのではない。「御用!」「捕った!」の合図でもわかる通り、これはたしかに職分を以て、この町の民の安寧のために、特に不穏な時節柄を警戒すべく巡回の役向のお手先である。今、密行中に、路上にうずくまる挙動不審の男を、相当以前から物蔭にかくれて動静をうかがい、いよいよ挙動不審を確めたから、そこで、旋風の如く躍りかかって、引捕えるべく飛びかかったものに相違ないが、それを曲者にいなされて、捕えらるべきものがここに踏みとどまって、捕うべき者が遥か彼方へ投げられて、そうして起き