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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
だが、相手が相当の曲者だと見て取った捕方は、陣容を立て直して取詰めて来る気合が、ありありとわかる。
「野郎!」
時分はよしと、真正面から十手をかざして打込んで来たが、
「カツン」
手ごたえはあったが、
「あっ!」
その十手が高く中空を舞って飛び上るのを見ると共に、人と人とが地上でふたたび巴に引組んで転がるのを認めました。
「手向いするか」
二つの身体は再びもつれ合ったが、それも長いことではない、今度は米友の方が、鎌鼬のように後ろへ走り出しました。
逃げたのです――だが、それを捕手が追わない。地上に倒れて起きない。
「うむ――」
それは、残念無念、取逃がしたといううめきだかどうだかわからないが、現在、曲者と見かけた奴に後ろへ走られて、それを透かさず追いかけることができないのだから、何か身体に相当の故障が起きたものと見てよろしい。唯一の武器としての十手は、その押しかかった瞬間にはね飛ばされてしまったことは確実で、そうして素手で向った相手の曲者に、すり抜けられてしまったことも現実の通りです。
一方、宇治山田の米友は、身にふりかかる火の子を払うつもりで打払ったが、その払い方が手練の払い方でしたから、先方唯一の武器を中天遥かにハネ飛ばしてしまったことは、この男としては相当の技倆です。