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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
直ちにこう答えたのは、これも日中、渡頭で居合抜きの芸術を鮮かにやってのけて見せたが――旅行券では、すっかり悄然返ったところの恐山出身の柳田平治に相違ないのです。この二つの黒法師は、黒法師っぷりとしてかえって調和がありました。田山白雲はすぐれて容貌魁偉であるのに、柳田平治は普通よりは小柄です。白雲の刀も普通よりは長いには長いが、身体には釣合っている。柳田平治のはただ一本、長過ぎることは昼間と変らないのです。こうして二人が相前後して北上川の沿岸の月の平野の夜を、我語り、彼答えつつそぞろ歩いて行くのですが、柳田平治は今の返答に附け加えて、
「南部の恐山といえば、なかなか有名ですから、人はすてきに高い山だと思いますが、山はさほど高くはないのです。山は高くないけれども、形相の変った山でしてね、恐山には地獄が九十九個所あって、極楽がたった一個所だと言われます、なんにしても恐山は登る山でなくして寧ろ下る山なのです」
と言いました。
二十一
「山へ下る――」
と言って、田山白雲の黒い影が、ちょっと淀みました。
どんな山でも山という以上は、人間としては上るべきものである。