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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
37 恐山の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页
「君、あそこの森蔭に、一点の火が見えるではないか」
「ええ、何か、鳴り物の音が聞えますな」
二人の声は、ほとんど啄同時のような調子でありました。
白雲が、その一点の火というのを認めたのが早かったか、柳田が、風に伝うて来る有るかなきかの鳴り物の音というのを耳にとめたのが早かったか、それはわからないでしょう。一方の眼と、一方の耳との正確さをもって一応たしかめるために、二人は暫く息を凝しました。
「たしかです、先生、たしかに火影が見えます」
白雲が最初に認めた火の光がいったん明滅したらしいのを、柳田が再び確認し得たらしく保証すると共に、白雲が、
「なるほど、なるほど、風に流れてかすかに物の音が響いて来るよ」
自分は眼に於て早く、柳田は耳に於て一歩を先んじていたらしい認識が、ここで両々相保証するの立場となりました。
「では、とりあえず、あれを目的として少し急いでみようではないか」
と白雲がまず唱えて、柳田がそれに従いました。そこで少し二人は歩行を早めて、火と音との遥かなる一角に向って歩み出しましたが、何をいうにも、白雲は大男であり、柳田は小男ですから、コンパスの相違が少々ある。