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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
38 農奴の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,484 字 · 60 页
他国に向っての積極的進出と、自ら守ることの堅実な消極的忍耐と、両方をこの国の人間が持つことができたという次第で――そこで、自分の国の乱れるということが、商人として成功する逆縁となりました。今日、大阪に於ける、江戸に於ける、近江商人というものの財力の、いかに根強くして盛んなるかを思い合わせてごらんなさるとよくわかります」
「なるほど、そうおっしゃられると、それがいわゆる近江商人の勢力の一大原因であるかのように感ぜられます。国土が争乱の巷となるが故に、住民が他国へ進出する機縁となる、逆縁がかえって利縁となったという次第ですな」
「そうです。しかし、そんならば、すべて自分の国が乱れているところの人民は、外に向って大いに発展をするかと申すと、それは一概には言われません、全く疲弊しきって、奴隷以下に没落してしまう国民もあるのですから、要するに気質の問題ですな」
「なるほど」
「江州人は、素質的に、逆境を打開する勤勉の気風を備えていると見なければならない理由もあるのです。たとえばです、これから越前の方へ向けて出る途中に、難渋な峠が三ツもある、たいていの人だと、それを聞いてうんざりし、せめて三ツの峠が二つにでもなればいいと、こういって歎息するところを、江州人は、峠が更に二つばかり余分にあればよい、そうすれば、人がいよいよ難渋