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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

と、きっぱり言いました。岩倉三位に対して、ともかくもこれだけの認識を持っているというのは、鈴木安芸守が、やんごとなき御方の、おつきの養育係を命ぜられて四年間、京都に留まったその経験がさせることと思われますから、いずれも耳を傾けました。今の関東では、やれ長州に高杉があるの、薩摩に西郷がいるのと言っても、てんで取上げはしない。旗本たちにとっては、薩摩や長州の藩主そのものでさえが、己れと同格以下に心得ている伝統的の自尊心があるから、そのまた下の軽輩共などが眼中にあろうはずはない。それは浮浪人同様のもので、月旦の席へは上せられない。かりに上せられても、一刷毛で片づいてしまう。しかし朝廷を擁する公卿となると、実力は問題にならないとしても、その門地の物言う勢力が、彼等をして軽視を許さない。そこで、公卿の人物観に於ては、存外、身を入れて聞くのでありますが、鈴木の岩倉観には、是非共に一言をさしはさむことができない。その代りに、

「では、関東方で、その岩倉に匹敵する人物は誰じゃ、西の岩倉と組んで、引けを取らぬ東の関は何の誰だろう」

岩倉にケチをつけてみたいが、つける知識の持合せが無い、その反動として、東でこれに対抗する人物ありや、と伝法の一人が質問を発したのは、将を射んとして馬を射るの戦法に似たものがあります。