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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

そのわけは、その女のお方は、もう胆吹にはおりませぬ、胆吹を飛んで、大江山の方へお出ましになってしまったそうでござります。

なに、大江山へ――いよいよ話が大時代になった。でも、鬼のいない胆吹へひとつ乗込んでみよう、その棲所のあとを調べてみるだけでも無用ではない。

こう覚悟をして、それから話題を改めて、浜屋のおかみさんに向ってこれから胆吹へ上る筋をくわしくたずねました。

四十四

主婦の諫めを用いず宇津木兵馬は、その翌早朝に出立して胆吹へ上りました。

長浜から僅かに三里、上りとはいえども、程度の知れた道、まもなく胆吹の麓について、よく聞きただした上平館の一角を探し当てたのは容易いことです。

いたりついて見ると、案外にも門は閉されて、全く人の気配がありません。

推せど、叩けど、おとなえども、応と答えるこだまはなく、全く無人の境と思いましたから、兵馬は、身軽く塀を乗越えて、上平館の境内へと侵入してみましたけれど、誰とて咎めるものはありません。

はて、この分で見ると、ここははや解散したあとだ。つい近頃までは人の出入りの相当繁かった気配は充分ですけれど、現在は全く引払って、さらに人跡をとどめていないことは、小径に生ずる草、立てこめる気分の荒涼さでもよくわかります。