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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
こう書き出してくると、夜前、ああいう光景を描き出した場所柄、またもや一層の妖気魔気が影を追うて来なければならないのですが、事がらはそれに反対で、妖気魔気どころか、気の利いた化け物は、面をそむけて引込むが当然なのです。
昭和十六年五月十日の東京朝日新聞の映画欄の記者でさえも、こういうことを書いている――
「が、元来、かういふ虚無的なやうな、感傷的のやうな嫌味ツたらしい浪人は、日本映画の昔から好物とするもので、現代人の心理を詰めこんだつもりで、深刻がつてゐるものの、実は、すこぶる浅薄陳腐といふべし……」
といったようなわけで、この浅薄陳腐なる嫌味ったらしい好みが、恥を知らない日本のうつし絵の食い物となっているも久しいものだ。今から三十年前、武州多摩川の上流から颯爽と現われた、これが原生動物と覚しき存在は、こんな無恥低劣な姿ではなかったはず。
何の因果か、この原生動物と覚しきが、三十年の昔、姿を現わして以来、この形のうつしが一代の流行を極めて、出るわ、出るわ、頭巾をかぶせたり、五分月代を生やさせたり、黒の紋附を着流させたり、朝日映画子のいわゆる浅薄陳腐な嫌味ったらしい化け物が、これでもか、これでもかと、凄くもない目をむき出し、切れもしない刀を振り廻して見得を切った、その嫌味ったらしい浅薄陳腐な化け物が、三十年の