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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
、寂光院に限ったことではございません、ドチラへつとめましても、お腹がすくものでございますから」
「食べるぐらい結構だよ、年寄でそのくらいお腹がすくのは、つまり身体が健康な証拠だね」
竜之助も詮方なしに、慰め気分で言うと、老婆は、
「はい、はい、そう思って、あきらめるよりほかはございませんが、なにぶんにも、食べるとは食べるとは直ぐにお腹がすいてしまいますので、ドコにも永く勤めることができません、よんどころなく、こうしてお釜を背負っては、旅に出るのでございます」
「なんにしても、エラく大釜らしいが、いったい何升炊きだい」
「はい、八升炊きでございますよ」
「八升炊き! 驚いたなあ、その釜で飯を焚いて食べて、まだお腹がすくのかい」
「はい、はい、それでも直ぐにお腹がすいてしまいますが、意地にも我慢ができないのでございますよ」
斯様に話をしている間に、釜の中がフツフツと沸騰をはじめて参りました。この時、竜之助がフト考えるよう、
「婆さん、釜が沸いてきたようだが、米はどうなんだい、釜ばかり仕掛けても、中へ入れるお米というものがあるのかい」
「はい、はい、お釜一つでさえ、この通り重いものでござんすから、とても、この中へ入れて炊くお米まで持って歩くわけには参りませぬ」