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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
41 椰子林の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页
声明の博士に向って披瀝しますと、博士はその志を諒なりとして、院主上人に向ってその希望を通じましたところ、院主上人は、また弁信の志を憐んで、これに対面して次のように申しました。
「金剛語菩薩即ち無言語菩薩、声明の奥義を極めんとならば、まず声なきの声を聞くべし、幸いにこの律呂の川の上に音なしの滝がある、音なしの滝に籠って、無音底の音を聞く気はないか」
かように申されました時、弁信は、一議に及ばず、これこそ望むところとあって、直ちに翌日の明星をいただいて坊を出で、音なしの滝に詣りました。
その日より、滝のほとりに、ささやかな安居の地を求めて、そこへ飛花落葉を積み重ね、正身の座を構えると共に、心神をすまして音なしの音を聞かんとすることが、この法師の早天暁の欠かさぬつとめ、世間は暫く彼の広長舌から免れるの自由を得ました。
七十三
有野村の与八が、この春から勧化をして歩いたことの一つに、荒地の開拓と、ハト麦の栽培、ジャガタラ薯の増産等があります。
与八は、その時、こう言って村々に勧誘をして廻りました――
皆さん、何が怖ろしいといって、戦争と饑饉ほど怖ろしいものはこの世にございません。