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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

夢酔道人の丹精むなしからず、あっぱれ幕府旗下の麒麟児として、徳川の興亡を肩にかけて起つ人となり、ここに、受爵の恩命が伝わること偶然ならずと言わなければなりません。これより先、受爵の内命が伝わった時、勝は考えました、

「さて、受爵には何の国を所望したものか、願わくば日本一の小国を願いたい」

そこで、安房守が選まれました。大国を名乗ったところで大国の主となるわけではなく、小国を冒したからとて器量が小さくなるわけではないのだが、勝がさらに小国を所望したのは、この人特有の皮肉がさせる業らしい。この人は、後年、功成り名遂げて、維新の功臣の中に加えられ、ここに再び明治政府の下に受爵の恩命が行われるの際、子爵に叙せらるるの風聞を伝え聞いて、

今までは人並なりと思ひしに

五尺に足らぬ四尺なりけり

と歌をよんで、さてこそ伯爵に叙せられたという伝説のあるくらいの人ですから、そういう人を食った性癖が、おのずから小国を好んで所望することになったらしい。

それはさて置き、当時、叙爵の儀が済んでから、控室に於て、諸士を相手の気焔の中に次のようなのがありました、

「政治家の秘訣はなにもないよ、ただ誠心誠意の四字ばかりだよ――内政のことにしろ、この秘訣を知らないから、どうも杓子定規で、さっぱり妙味というものがない。