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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

41 椰子林の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 178,374 字 · 345 页

青空文庫

お銀様がそれをしらないということは、不幸にしてそれを知るだけの素養を与えられていないという意味であります。

八

それはそれとして、お銀様が後壁の間に参入した瞬間に、お角さんとしては、これに追従を試むることを遠慮しました。というのは、後壁の間に参入、大元帥明王に見参ということは、お銀様だけの志願であって、お銀様だけに許されたというよりも、お角さんにとっては、よし、もし許されたからといって、猫に小判のようなものなのであります。特別に教養のあるものだけに許される特権でなければならないし、特別に教養の無いものが、それに追従することは、不敬であり、不遜であることを自覚しての、お角さんとしての遠慮なのです。

そこで、明王に特別謁見の間を、お角さんは、次の間というよりも、奥書院の廊下に立って待受けておりました。そこに立っていると、またも本庭の余水の蜿々たる入江につづく「舟入の茶屋」を見ないわけにはゆきません。お角さんは、太閤様お好みの松月亭の茶室に、じっと見入っている。が、それとても、大元帥明王の画像の前に立つお銀様と同様の、色盲ならぬ色盲をもって、木石の配置だけを深く見入っているような恰好をしているけれども、内容極めて空疎なるは致し方なく、お茶を知らない、寂を知らない、わびというものを知らないお角