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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

「無茶を言うなよ――だが、あんまり騒々しくせず、邪魔にさえならなければ、お頼み申して連れて行ってやる」

「では行きましょう、その月見のお舟はどこから出るのです」

「観瀾亭の下から」

「観瀾亭というのは、お月見御殿のことなんでしょう、行きましょう」

茂太郎は、むしろ白雲の衣を引っぱるようにして、月見船まで促し立てました。相変らず生意気な小僧めとは思いながら、この小僧をつれて行くことは、必ずしも風流の邪魔にはならないで、相手が稀代の風流婦人だけに、時にとって意外の手土産になりはしないかとさえ思われました。

こうして、茂太郎とムクとにからまれながら田山白雲は観瀾亭の下まで来ると、果して風流数寄な屋形舟が一つ、ちゃんとろかいをととのえて、酒席を設けて待構えていました。酒席の上には、当然、東道の主なる閨秀詩人が、今日は薄化粧して嫣然として待ちかねている。物慣れた老女が一人かしずいて席を周旋し、老船頭が一人船をあずかって迫らない形をしている。

「田山先生、ようこそ」

「いや、どうも……恐縮です」

白雲がいたく恐縮をしてしまいました。ことには、いかなれば旅絵師のやつがれ風情に、今日はこうして扶桑第一といわれる風景のところに、絶世の美人で、そうして一代の詩人に迎えられて、水入らずにお月見――美酒あり、佳肴あり、毛氈あり、文台がある