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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

自然、今後の航海、その針路としてはまだ確定はしていないが、それは当然房州から仙台まで廻航して来た以上の難航が予想される。その際に於てのあのマドロスの必要は、全くかけがえのない絶対的のものである。伊豆系統の熟練な船頭はいるけれども、それは仕事の性質と経験が違う。そう思って見ると、許し難き放蕩も許し、度し難き不埒も見て見ぬふりをしておらねばならなかった駒井甚三郎の苦衷というものが、白雲にはよくわかってくると共に、自分というものの不在中を残念がらずにはおられない。

なあに、あのウスノロ如きは、自分がいさえすれば頭から威圧して、文句は言わせもしないのだが、船長としての責任ある地位で、かけがえのない無頼の労働者を、だましだまし使用する苦衷は、自分のようにそう一本調子にいくものでないことを、白雲といえども駒井のために推察するだけの思いやりは持っている。そこで、白雲は身を乗出して言いました、

「うむ、そのこともあったっけな。許し難い奴だ、あのマドロスめ――もう一ぺん締めてやらなければ。よしよし、その方も拙者が引受けよう、七兵衛おやじの方といっしょに、ウスノロの奴も近いうちに見つけ出して、有無を言わさず、これへ引きずって来てみましょう。