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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
「これ、これ――まず、これで安心」
白雲は、一応あらためてみて大安心をして、その荷物をまた一からげ、帰りまで更に保管を託して置くことにしました。
そうして、夜具をのべてもらい、枕に就くと女の子が、六枚屏風を持って来て、立て廻してくれました。六枚屏風は少し大形だと感じましたが、その手重いところが、また、旅情の一つと嬉しくも思いました。
そこで、枕について、それとなく立て廻された六枚屏風を見ると、それは月並のつく芋山水を描いたものでなく、いろいろの文字を寄せ書してある様子が異っているから、また少し枕の向きをかえて見直すと、一目でわかる旅姿の芭蕉の像を描いて、その上に文章が記してある。
「終に道ふみたがへて、石の巻といふ湊に出づ。こがね花咲くと詠みて奉りたる金花山、海上に見わたし、数百の廻船、入江につどひ、人家地をあらそひて、竈の煙たちつづけたり。思ひかけずかかる所にも来れるかなと、宿からんとすれど、更に宿かす人なし。やうやうまどしき小家に一夜を明す」
これを読んで田山白雲が、ははあ、「奥の細道」だな、「奥の細道」も、松島や平泉のところの名文は空に覚えているが、こんなところはあまり気がつかなかった。