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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
駒井がどうかして不意に金椎の室内を訪れた時、こういった光景を見て、最初は病気に苦しんでいるのだと思いましたが、後にはそうでないことを知りました。
つまり、この聾少年はこうして「おいのり」をしているのです。駒井には信じきれない、目に見きれない神様というものに対して、この少年はこうして「おいのり」を捧げているのだ、ということを知ると共に、駒井はそれを軽んぜられない心になりました。これを妨げてはいけないという心になって、ある時はそのまま立去り、ある時は、その「おいのり」の済むまで自分も儼然としてそのところに立ち尽すのを例としました。
今もまたその通りです――しかし、駒井甚三郎がこうしてその少年の祈りを見ているが、今宵の少年の祈りは、いよいよ厳粛に、深刻に進み行くかのように、腸へしみるような深い唸りが連続的に続いて行く。単にその唸りだけが、駒井の心を、なんとも言えない厳かな、沈痛なものに導き入れるのです。駒井はついにその重圧に堪えられないで、この少年の祈りの終るのを待たずに、またそっとこの室を出てしまいました。
祈りの聾少年は、船長の入って来たことも知らず、立去ったことも知らなかったでしょう。