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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

そこで、細川家が再生の恩を以て伊達家を徳とすることは申すまでもございません――その時に、細川家で家老たちが相談をして、文禄朝鮮征伐の時の王羲之の孝経の半分を持ち出し、いささか恩義に酬ゆるの礼として、これを伊達家に御寄贈になりました。これで細川家五十五万石が救われ、王羲之の孝経は完全な一巻となって、伊達家に秘蔵される運命になったのだそうでございます。

右の来歴を逐一聞き終ってみると、白雲はあきらめたようなものの、せめて、その本でも、うつしでも、片鱗でも見たいものだと頻りに嘆声を発しました。

玉蕉女史も、来歴のことだけはかなりくわしく知っているが、その片鱗をもうかがっていないことは白雲と同じ、そうして、しきりと渇望の思いにかられることも同じであります。

けれども、結局、いかに執心しても、こればかりは我々の歯が立たないということに一致し、徒らに王羲之の書――その他の書道の余談に耽ることによって、夜もいたく更けたようです。

いつまでたっても話の興はつきないが、この辺で御辞退と白雲も気を利かせると、廊下伝いの立派な客間へ白雲を案内させて、美しい夜具の中に、心置なき塒を与えくれるもてなしぶりに、白雲もなんだか夢の国へでも来たような気持になって、うっとりと、その美しい夜具の中に身を置いてみると――王羲之を中心としての