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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
34 白雲の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页
まだ同じところに立って評定を続けている。
「ちと困ったことだ」
「捨て置きましょう」
「いや、捨て置くわけにはならん、苟も藩の御殿の床下へ矢を射込んで、それをそのままにして置いては、後日の言いわけが相立たぬ」
「それもそうでござりますな」
「大儀ながら番人に申し入れて、よく床下を探させ下さい」
「心得ました」
この問答を聞いて、再び七兵衛が不安に襲われました。
なるほど、あやまって射込んだ矢一筋ではあるが、御殿の床下へ入ったものを、そのままにして置けない、尤もな言い分だ。だが、そうしてみると、当然、ここへもぐり込んで、あくまで矢を探しに来る人の数がある。矢一筋よりも、見つかってならないものが現にこの通り床下にあるのだ。それをどうしよう、七兵衛は本当に焦眉の急の思いをしました。
自分一身が遁れるだけは何の苦もないことだが、枕許のあの一件、あの幾点の品、あれをこの際、土を掘って埋めるわけにはいかない、火をつけて焼くわけにもいかない、当然やがて寸分の後、ここへもぐり込む人の身が、一筋の矢よりも、もっとずっと大きな獲物を発見するにきまっている……
はや、三方からメリメリと矢探しの手がかかって来た。